診察案内
整形外科 Orthopedics
ヒトの整形外科といえば、肩が痛い、膝が痛いなど患者自身が不具合のある場所を特定して医者に伝えることができます。しかし動物は言葉が話せないためどの場所に問題があるのかを探すことが難しく、その診断には知識と経験が必要になります。整形外科の診断は動物の代わりにご家族から症状、経過をお伺いし、実際に診察室で歩き方を観察します。整形外科的な触診を行い異常な部位がわかったらX線検査などを行います。当院ではほとんどの処置が無麻酔で可能ですが、患者の状態、性格などによっては鎮静処置を行なって実施いたします。鎮静は麻酔専門の獣医師が担当しますので安全に行うことができます。
当院で実施可能な疾患
前肢の関節
肩関節脱臼/肩関節離断性骨軟骨症/上腕二頭筋腱石灰化/棘下筋拘縮/肘関節脱臼/肘関節離断性骨軟骨症/肘関節内側鈎状突起分離症/肘突起不癒合/上腕三頭筋断裂/手根関節脱臼
前肢の骨折
肩甲骨骨折/上腕骨骨折/前腕骨折/モンテジア骨折/各成長板、骨端線骨折/手根骨骨折/中手骨骨折/趾骨骨折/各骨の変形矯正
後肢の関節
仙腸関節脱臼/股関節脱臼整復/股関節形成不全症/大腿骨頭虚血性壊死症(レッグペルテス病)/汎骨炎/前十字靭帯断裂/膝蓋骨脱臼/膝関節複合靭帯損傷/膝関節離断性骨軟骨症/半月板損傷/足根関節脱臼/足根関節離断性骨軟骨症/アキレス腱断裂/脛骨異形成
後肢の骨折
骨盤骨折/大腿骨骨折/脛骨骨折/脛骨結節裂離骨折/足根骨骨折/趾骨骨折/踵骨骨折/各成長板、骨端線骨折/各骨の変形矯正
膝蓋骨脱臼
膝蓋骨(しつがいこつ、パテラ)はいわゆる”お皿”で膝にある小さな骨です。膝蓋骨は骨盤と大腿骨から始まる大腿四頭筋に繫がり、更に膝蓋腱で脛骨とつながっています。これらは膝を伸ばすのに重要な役割を果たしており、膝蓋骨はこれをスムーズにかつ効率的に行う為の構造です。
膝蓋骨内方脱臼は特にトイプードル、チワワ、ヨークシャテリア、マルチーズ、パピヨン、ポメラニアン、柴犬などの犬種に多く、1歳になる前から症状があることが殆どです。最近では洋猫でも発見されることが増えています。
“足を急に挙げてスキップのような歩き方をし、その後ひとりでに良くなる”
”足がO脚気味である。足先は内側を向いている”
“たまに後ろ足が脱力したようになる”
このような症状がある場合は例え症状がすぐに改善する場合でも精密検査を受けた方がいいでしょう。
また、膝蓋骨脱臼は90%近くで将来的に悪化すると言われています。動物では強い痛みがなく歩行ができるためそのまま放置されていることがありますが、中年齢を超えた頃には膝を伸ばすことが困難になり前十字靭帯の断裂が発生し手術の規模が大きくなることがありますので、若い時期に外科治療することが推奨されています。膝蓋骨脱臼は複雑な疾患ですので、経験のある施設での治療をお勧めします。
前十字靭帯断裂
前十字靭帯断裂は犬の整形外科疾患の中で最も多い疾患です。多くは大型犬から中型犬に発生しますが、小型犬でも発症することがよくあります。前十字靭帯断裂は人ではスポーツ選手がよく練習や競技中に損傷を受けますが、動物では外傷よりも徐々に靭帯が変性(元に戻ることのできない変化、劣化)しロープが切れるように数年かけてダメージを受けていきます。それゆえ最近は前十字靭帯疾患とも呼ばれています。初期の段階はごく軽度の跛行、お座りが完全にできないで足を投げ出す、段差を躊躇するなどの軽い症状ですが、その症状が完治せずに続きます。この時期には前十字靭帯の線維の一部が断裂し膝関節で滑膜炎が進行していきますが、完全に診断できないことが多くあります。そしてそのうち前十字靭帯の半分ほどが断裂すると明らかな跛行を繰り返し、鎮痛消炎剤などに反応しないことが多くなります。この段階では関節の緩みが認められ関節炎が徐々に進行しています。前十字靭帯が完全に断裂すると、犬は大抵後ろ足を完全に挙上するほどの症状を出します。場合によっては膝からクリック音が聞こえ、これは半月板が損傷している可能性があり非常に痛みを伴います。前十字靭帯断裂の診断には、整形外科的触診による膝関節の不安定、膝関節の腫れ、関節液の貯留、レントゲン検査などの所見で総合的に判断し、最終的に関節鏡、関節切開などで直接目視する必要があります。
治療方法は外科治療が第一選択です。膝の不安定性は外科手術でのみ治療することができ、早期に治療することは関節炎の進行を遅くすることができます。しかし他の疾患による二次的な十字靭帯断裂、全身状態の不安、年齢などを考慮して保存的治療やリハビリテーションでの治療を行うこともあります。
さまざまな治療方法が開発されてきましたが、現在最も安定力、予後で優れているのは脛骨の骨切り術です。当院で最も行われる治療はその一つであるTPLO(脛骨高平部水平化骨切り術)です。当院では手術経験の豊富な獣医師が執刀いたします。
前腕骨折
小型犬、トイ犬種では室内でも前腕を骨折することがあります。体の小さい犬の前腕の骨は非常に細くデリケートであるため適切な治療が行われないと、癒合不全(骨が適切につかない状態)、再骨折などが起こり得ます。このような状態になると治療はかなり困難になり、骨移植が必要となったり、足の長さが短くなり歩行に異常が出たり、最悪の場合治療不可能な状態になります。当院では患者の年齢や性格、骨折の状態によりギプス固定、プレート固定、創外固定などの中から患者に負担がかからず、ご家族もケアが複雑にならない治療方法を選択いたします。
最小侵襲手術
当院では関節手術、骨折手術においてなるべく組織を損傷しない最小侵襲手術を心掛けています。骨折手術ではCアームというX線透視装置を使用し、皮膚、筋肉の切開をなるべく小さくします。また関節疾患では関節鏡を使用することで、小さな傷で関節内をより詳細に観察することが可能となります。
関節診断
大型犬では遺伝的な関節疾患があり、それらは成長期に進行することが知られています。特に股関節形成不全症や肘異形成がよく知られており、これらの疾患では成長期に正しい治療が必要になることがあります。これらの疾患はまずは触診と正しいX線検査が必要です。当院ではほとんどの場合麻酔を必要としませんが、犬の制御が不可能で正確に撮影ができない場合には麻酔科医の元、鎮静処置を行う場合があります。(麻酔のページへ)
変形矯正術
骨折の不適切な位置での癒合、成長期の成長板の障害、ダックスフントの脛骨異形成などで骨が変形している場合重度な歩行障害が起こることがあります。このような場合には適切なプランのもと骨の一部を切り、正しいアラインメントに整復し固定することで関節の方向を正しくし、歩様を改善します。